しきたんの自由なブログ

思うことや感じることを、けっこう自由に書いてるブログ。

『coda』

 高校の卒業証書授与式。快晴。体育館の窓からは咲き始めの桜が見える。
「3組 40番 和森星羅さん」
 返事がない。
「3組 40番 和森星羅さん、和森さん、」

 突然警報機が鳴り、同時に「蛍の光」のオルゴール演奏が途中から校内放送で大音量で流れ出し、1番が終わると同時に音は消えた。その日、彼女はついに姿を現さなかった。そのまま誰も、行方は知らない。

 

「今日ご相談されたいのはどのようなことなのでしょう?」

 柔らかな緑色のワンピースに明るいグレーのジャケットを合わせた、女性カウンセラーが尋ねる。星羅のきっちりとまとめた長い黒髪に地味な色味の機能的な出で立ちに、オレンジ色の客用スリッパが鮮やかに浮いて見える。

「あの卒業式の日いつの間にか家に帰っていたような感じで、昨日のことが思い出せないんです。子どもを保育園に迎えに行ってそのまま買い物をするつもりで会社を出た、そこまでは覚えているのですが・・・思い出そうとすると、この記号ばかりが浮かびます。しかも、これは同僚からの伝言ですが、昨日私が会社を出たあとは全てのパソコンが一時フリーズしてしまったようなのです」

 星羅の取り出したリングノートと生徒手帳には、円と十字を重ねたような記号がびっしりと書かれていた。十字の線は全て円からはみ出している。

「子どもの頃使っていたノートと高校の生徒手帳です。昨日の記号、どこかで見覚えがあって、探し出しました」

「見せていただいてありがとうございます。この記号のイメージが頭に浮かぶのですね。これが、どんな意味を持つのか心に問いかけてみましょうか」

 星羅はその声にリングノートから顔を上げる。問いかけてわかるものなのだろうか? 女性カウンセラーはそのまま、ハキハキとカウンセリングを進めていく。星羅は、言われるままに心に聞いていくほかなく、目を閉じ、心に問いかけていく。

 窓の外には、早くも散り始めた桜が見える。4月上旬、まだ肌寒い。 問いに問いを重ね、時間をかけての何度目かの質問のあと、全てがつながった。 終わり、だ。あの記号は、coda(コーダ)。終わりという意味の音楽記号だ。私は、なぜわからなかったのだろう。いつも私は終わらせたがっていた。昨日も、あの時も、ずっとずっと私は本当は終わらせたがっていた。他人のいいなりになることを、終わらせて、自分のメロディを奏でてみたいと思っていた。

終わらせていいんだよ。
私の心は、ずっと私に伝えてくれていた。 
 

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9月の800字小説 テーマ:伝わらなくても
 
(謎なエピソードを入れながら解かないまま終わっているので続きを書かないと意味不明な作品です。。)