しきたんの自由なブログ

思うことや感じることを、けっこう自由に書いてるブログ。

『秘密基地』

 今日も川についた。やっと息が吸える。川といってもここは上流で、バーベキューなどは似合わない、大振りな樹や岩の息づく森といった方が良い。中学校から家までの徒歩25分の帰路から少しそれたところにある。

 
 学校が終わると、図書館で本を調達し、スーパーでお菓子を盗みだし、川辺に向かう。楠や桜の大振りな枝がうまい具合に目隠ししてくれる、くつろぎやすい大きな岩。この秘密基地で日暮れまでゆっくり過ごす。岸辺でヤゴやアメンボ、おたまじゃくしなどを眺めていると、あっという間に日が暮れる。


 夕飯は家族と食卓を囲む。母は、魚をさばくのがうまい。刺身もよければ、煮付けの味付けも抜群としかいいようがないけれど、食事中の会話はお飾りでしかない。父も兄もニコニコしながら今日あった良かったことを話すけれども、なぜ悪いことが一つもないのか不思議なもので。ここで心を込めて話したら負け。みんな聞いてやしない、人の話なんて。正直、一人のほうがずっとまし。


 教室にいる男も女も気が合わない。なぜ一緒に移動するのか。なぜ同じテレビ番組を見ているのか。なぜ同じように制服を着崩すのか、なぜゆえ先生やクラスメイトを馬鹿にするのか。一人じゃ何もできないくせして、馬鹿はお前らだろうが。と、思う。

 煙のにおい。この岩からそれほど離れていない橋の下に誰かいる。煙草を吸っているのだろう。忍者のごとく樹の裏からまた別の樹の裏へ移動しながら、下を覗き込むと、煙草を片手に顔を伏せてしゃがんでいるあの子がいた。別のクラスで名前は知らないからあの子と呼んでいる女子生徒。長いおさげにこのダサイセーラー服を規定の膝丈で着ているのが妙に似合う、古風な顔立ち。


 昼休み、彼女はいつも図書室で小さなスケッチブックに絵を描いている。文章も書き添えられていて一見絵手紙のようだが、ノートの中心にはトマトではなく心臓なのか内臓のようなもの、花束の代わりに無数のドクロみたいなものが描かれているのを私は密かに知っている。
 よく見ると、彼女の肩が揺れている。笑っているのか、泣いているのか。

「ねえ、」
 


思わず、話しかけてしまった。

しばしさよなら。私だけの時間。

 

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8月の800字小説 テーマ:私だけの時間