しきたんの自由なブログ

思うことや感じることを、けっこう自由に書いてるブログ。

『パナマ帽』

窓の外がのどかになるにつれ席が空き続け、ついに私も腰を下ろした。

 

私は実はまだ、初々しき、うっすいピンク色した蕾なんだろうか。
あるいは、花も咲かぬまま枯れゆく運命なのか。
おそらく、そのどちらでもあるのかもしれない。

恋愛、就職、結婚、出世、出産、育児、みんなの嬉しいニュースが羨ましいようで
それらはすべて、嘘で塗り固めた空虚なドンチャン騒ぎのようで。
真顔でいいね、いいねと押して、Facebookを閉じ、見知らぬ駅のプラットフォームに降り立った。

初夏。
甘ったるい空気が抜けて、緑が鋭く、潔い。
強めに吹き抜ける風が心地よい。

おろしたての萌黄色に染めた麻のワイドパンツに、黒地に金色のバックルが光るフラットサンダル、真っ白くて長すぎるくらいのロングシャツに、シェルをたくさん連ねたロングネックレス。パナマ帽も外せない。それから深緑色のサングラス。

こんな格好見せられない。どうにも、私の好き放題、やりすぎだから。

私は誰の印象にも残らない服を着て、人の目から逃れた気になっているような人間だ。人間は社会的動物だというが、その社会性を排して生きたい。
そんなことを思う時私は精神異常者なんだろうか。しかしそれでも仕事にも何にも支障はないのだから、問題はないのだろうか。
 
今日は海に会いにきた。 
駅からまっすぐ急な坂を下りきり、テトラポッドの群れに合流、そのままあぐらで座り込む。

風が強く、波が荒々しい。しぶきが飛んでくる。打ち上がった魚。海のにおい。
学校帰りの小学生2人、漁師のおじいさん1人、カモメが3羽、そして私。
海辺は、物好きの集まりのような体をなしている。


ばさり、びゅう、

思わず目を覆う。
突風が私のパナマ帽がふきとばし、空高く舞い上がった音であった。


あまりに一瞬で、笑ってしまう。

やっぱり私は
はなひらくのをウズウズ待っているわけでも、
むなしく枯れているわけでもない。
ただ、生きているのだ。それが楽しい。

海が大きく頷いた。
 
 
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4月の800字小説 テーマ:はなひらく